遊びで育む子どもの「気持ちの切り替え」と柔軟な思考力:家庭でできるアイデア【発達支援】
はじめに:遊びで育む「気持ちの切り替え」と「柔軟な思考」
お子さまとの毎日の遊びは、楽しい時間であると同時に、お子さまの成長を促す大切な機会です。特に、発達に特性のあるお子さまの場合、活動や気持ちの切り替えが苦手であったり、考え方が固定的になりやすかったりすることがあります。
こうした「気持ちの切り替え」や「柔軟な思考力」は、集団生活や新しい環境への適応など、社会の中で生きていく上でとても大切なスキルです。これらのスキルは、特別な訓練だけでなく、日々の遊びの中でも自然に育むことができます。
この記事では、「遊びで育む発達支援」の視点から、ご家庭で簡単に取り組める、お子さまの気持ちの切り替えや柔軟な思考力を育むための遊びのアイデアをご紹介します。身近なものを使った簡単な遊びを通じて、お子さまの成長をサポートするヒントになれば幸いです。
「気持ちの切り替え」と「柔軟な思考力」とは?
まず、「気持ちの切り替え」と「柔軟な思考力」について簡単に整理してみましょう。
- 気持ちの切り替え: 今している活動や考えていることから、次の活動や考えにスムーズに移る力のことです。例えば、遊びを中断して食事に移る、楽しいことから宿題に取り組む、といった場面で必要になります。
- 柔軟な思考力: 一つの考え方に固執せず、状況に応じて複数の視点から物事を考えたり、代替案を考えたりする力のことです。予期せぬ出来事に対応する、問題解決の際に様々な方法を試す、といった場面で役立ちます。
発達に特性のあるお子さまの中には、特定の活動への強いこだわりがあったり、急な変更が苦手だったりすることがあります。これは、これらのスキルの発達に時間がかかる、あるいは定型発達のお子さまとは異なるプロセスをたどる場合があるためです。しかし、適切な働きかけによって、これらのスキルを少しずつ育てていくことは十分可能です。
遊びで育む!気持ちの切り替え・柔軟な思考力アイデア
特別な準備や道具がなくてもできる、遊びを通した働きかけのアイデアをご紹介します。大切なのは、成功体験を積み重ねながら、お子さまが変化や切り替えに対して安心感を持てるようにすることです。
アイデア1:ルールを変えてみる遊び
簡単なカードゲームやボードゲーム、鬼ごっこなどの遊びで、途中で少しだけルールを変えてみるという遊び方です。
- 遊び方:
- まずは通常のルールで楽しく遊びます。
- 遊びの途中で「今から、いつもと逆のルールにしてみようか!」「例えば、じゃんけんでチョキが一番強くなるルールにしてみよう!」のように提案します。
- お子さまが戸惑う場合は、「どうなるかな?」「やってみよう!」と誘い、一緒に試してみます。
- 難しければ、すぐに元のルールに戻しても構いません。
- ポイント:
- 最初から大きくルールを変えず、小さな変更から始めましょう。
- ルール変更は、お子さまが遊びに慣れてきた頃に提案するのがスムーズです。
- ルール変更そのものを楽しいイベントのように演出します。
- 新しいルールでできたことを具体的に褒めます。「ルールが変わったのに、すぐに気づいてチョキを出せたね!すごい!」
- 発達への働きかけ:
- 状況の変化に気づき、対応する力が育まれます。
- 一つの考え方だけでなく、別の可能性も受け入れる柔軟性が養われます。
- 思考の切り替えの練習になります。
アイデア2:見立てを変える遊び
積み木やブロック、粘土、空き箱など、一つの素材を別のものに見立てて遊ぶ方法です。
- 遊び方:
- 例えば、積み木で遊んでいる時に「この積み木、今度は『電車』に見立ててみようか?」「長いのと短いのを繋げてみようよ」と声をかけます。
- お子さまが別のものを作った時に、「これは〇〇なんだね!すごいね!じゃあ、今度はこれを使って△△に見立てることもできるかな?」と促します。
- ごっこ遊びの中で、急に役割を変えてみるのも良い方法です。「さっきはお医者さんだったけど、次は看護師さんになれるかな?」
- ポイント:
- お子さまの自由な発想を大切にします。
- 大人が一方的に指示するのではなく、「〜に見立ててみようか?」と提案する形が良いでしょう。
- お子さまが新しい見立てに成功したら、「なるほど!そうやって見ることもできるんだね!」と共感や感心を示します。
- 発達への働きかけ:
- 固定的な思考から離れ、一つのものに複数の役割や意味があることを学びます。
- 想像力や創造性が豊かになります。
- 異なる視点から物事を捉える柔軟性が育まれます。
アイデア3:活動の区切りを意識する遊び
遊びの始まりと終わり、次の活動への移行を視覚的・聴覚的な合図を使って意識させる遊びです。
- 遊び方:
- 「このタイマーの音が鳴ったら、お片付けを始めようね」とタイマーを使って遊ぶ時間を区切ります。
- 「この歌が終わったら、ブロックはおしまいにして、今度はお絵かきにしようか」と歌や手遊びを次の活動への合図にします。
- 「この絵本を読んだら、もうすぐご飯の時間だよ」のように、次に何が起こるかを事前に伝える習慣をつけます。
- 遊びの終わりには「おしまい!」と声に出したり、手をたたいたりする明確な区切りを作ります。
- ポイント:
- タイマーや合図をお子さまにとってポジティブなものとして関連付けます。(例:「タイマーさん、お片付けの時間を教えてくれたね!ありがとう!」)
- 事前に伝えることを徹底します。「あと5分でこの遊びはおしまいだよ」「これが終わったら、次はこれをするよ」
- スムーズに切り替えられた時は、すぐに褒めて認めます。「タイマーが鳴ったら、すぐに片付けを始めたね!すごいね!」
- 発達への働きかけ:
- 活動に終わりがあること、次の活動があることを予測する力が育まれます。
- 見通しを持つことで、切り替えに対する不安が軽減されます。
- 時間やルールの理解につながる基礎が作られます。
遊びを通した働きかけをスムーズに行うためのヒント
- スモールステップで: 最初から完璧な切り替えや柔軟性を求めず、お子さまができることから少しずつステップアップしましょう。
- 肯定的な声かけ: うまくできた時、少しでも変化に対応しようとしたプロセスを具体的に褒めることで、お子さまの自信につながります。「ルールが変わった時に、どうしたらいいか考えていたね、えらいね!」「別の遊びに切り替えるのに、少しだけお片付けを手伝ってくれたね、ありがとう!」
- 環境を整える: 遊びのスペースを整理したり、次の活動に必要なものを準備しておいたりすることで、物理的な切り替えをスムーズにします。
- ルーティンを作る: ある程度の決まった流れがあると、お子さまは見通しを持ちやすくなります。「この遊びの後は、いつもこれをする」という安心感が、切り替えの練習になります。
- 遊びそのものを楽しむ: 最も大切なのは、親子の温かい関わりの中で、遊びそのものを楽しむことです。楽しかった経験が、新しいことへの挑戦意欲につながります。
他の家庭での成功事例(フィクション)
あるお母さまは、お子さまが特定の遊びに強いこだわりを持ち、なかなか次の活動に移れないことに悩んでいました。そこで、上記で紹介した「活動の区切りを意識する遊び」を取り入れてみたそうです。
最初は、遊びの終わりに「おしまい」と声をかけても全く聞いてもらえませんでしたが、お母さまは根気強く、タイマーや好きな歌を終わりの合図として使うことを続けました。同時に、「タイマーが鳴ったら、次は〇〇で遊ぼうね!」のように、次の楽しい活動を具体的に伝えるように工夫しました。
すると、最初は泣いて抵抗していたお子さまが、徐々にタイマーの音や歌の終わりを意識するようになり、最終的には「あ!タイマー鳴ったね、お片付けしようか」と自分から言いながら、次の活動へスムーズに移行できるようになりました。完璧ではない日もありましたが、スモールステップで取り組み、できた時にたくさん褒めることで、お子さまの切り替えの力は着実に育っていったそうです。
まとめ
お子さまの「気持ちの切り替え」や「柔軟な思考力」は、一朝一夕に身につくものではありません。日々の生活や遊びの中で、繰り返し経験を積み重ねていくことで少しずつ育まれていきます。
ここでご紹介した遊びは、特別な道具や難しい準備は不要です。ご家庭にあるものや、いつもの遊びに少しだけアレンジを加えることから始めていただけます。
焦らず、お子さまのペースに合わせて、遊びを通して楽しみながらこれらの大切なスキルを育んでいきましょう。親子の温かい関わりの中で行われる遊びは、お子さまの成長にとって何よりの栄養になります。
この記事が、お子さまの発達支援に取り組むご家庭のヒントとなれば幸いです。