遊びで育む子どもの指示理解力:家庭でできるステップと工夫【発達支援】
指示理解の難しさと遊びで育む大切さ
お子様への声かけに対して、「聞いていないのかな?」「どうして言われた通りにしてくれないのだろう?」と感じることがあるかもしれません。特に発達に特性のあるお子様の場合、指示を聞いて理解し、行動に移すことに難しさを抱えることがあります。これは、耳から入ってくる情報を処理したり、複数の情報を同時に覚えたり、注意を集中したりするなどの認知機能に関連している場合があります。
指示を理解し、適切に行動する力は、日常生活を送る上で非常に重要です。家庭での声かけに応じることはもちろん、集団生活でのルールを守ったり、学習を進めたりする上でも基盤となります。この指示理解力を高めるために、特別な訓練ではなく、お子様にとって最も自然で楽しい「遊び」を取り入れてみませんか。遊びの中であれば、お子様はリラックスして主体的に取り組むことができ、無理なく指示理解の練習をすることができます。
この記事では、家庭で簡単にできる、遊びを通した指示理解力の発達支援アイデアをご紹介します。
指示理解力を育むための遊びのステップ
指示理解力は、段階を踏んで育てていくことが大切です。まずは簡単なステップから始め、お子様のペースに合わせて少しずつ難易度を上げていきましょう。
ステップ1:簡単な1段階の指示に慣れる遊び
まずは、一つの動作だけを求める簡単な指示から始めます。身近なものを使って、短い言葉で明確に伝えましょう。
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「どうぞ」でやり取り遊び:
- 用意するもの:ボール、積み木、おもちゃなど、お子様が興味を持つもの一つ。
- 遊び方:
- おもちゃを一つ持ち、「〇〇(おもちゃの名前)、どうぞ」と言いながらお子様に渡します。
- お子様が受け取ったら、「ありがとう」と伝え、今度は「〇〇、どうぞ」と言いながら受け取ります。
- 慣れてきたら、「ちょうだい」や「とって」など、別の簡単な言葉も加えてみます。
- ポイント:「どうぞ」という言葉と、おもちゃを渡す・受け取るという動作を結びつけて理解する練習になります。成功したら「できたね!」と具体的に褒めましょう。
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「ここに」で場所を理解する遊び:
- 用意するもの:積み木、ブロック、ぬいぐるみなど複数。箱やマットなど、置く場所を示すもの。
- 遊び方:
- 「〇〇を、この箱に置いて」など、具体的な場所を指しながら指示を出します。
- 初めは場所を示す箱やマットなどを近くに置き、簡単にできるようにします。
- 慣れてきたら、箱を少し離したり、複数の箱を用意して「赤い積み木を青い箱に入れて」のように物の属性と場所を組み合わせた指示に挑戦します。
- ポイント:指示に含まれる「場所」の言葉(「〜に」「〜の下」「〜の上」など)と、実際の場所を結びつける練習になります。視覚的に分かりやすいように、場所を指差したり、絵カードを使ったりするのも有効です。
ステップ2:2段階以上の指示に挑戦する遊び
1段階の指示に慣れてきたら、複数の動作を含む指示に挑戦します。言葉だけでなく、順序を理解する必要が出てきます。
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「〜して、それから〜して」遊び:
- 用意するもの:おもちゃ、お片付け用の箱など。
- 遊び方:
- 「まずブロックを全部集めて、それからこの箱に入れてね」のように、二つの指示を伝えます。
- 初めは、お子様がよく知っている簡単な動作の組み合わせにします。
- 慣れてきたら、「〇〇を取ってきて、△△さんに渡してね」など、動作の順序や対象が増える指示に挑戦します。
- ポイント:二つの指示を順番に覚えているか確認しながら進めます。お子様が迷っている様子なら、一つ目の指示が終わった後に「次は箱に入れるんだよ」と優しく促したり、指差しで示したりします。
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宝探し風おつかい遊び:
- 用意するもの:家の中にある簡単なもの(例:タオル、スプーン、絵本など)。
- 遊び方:
- 「台所に行って、赤いスプーンを持ってきてくれる?」のように、場所と物を組み合わせた指示を出します。
- 慣れてきたら、「お風呂場に行ってタオルを取ってきて、それからリビングのテーブルの上に置いてね」のように、場所移動を含む複数の指示に挑戦します。
- 指示通りにできたら、「すごい!見つけてくれたね!」と大いに褒めて、達成感を与えます。
- ポイント:日常のちょっとしたお手伝いを遊び感覚で行います。遊び始める前に、指示を復唱してもらう、絵で手順を示すなど、お子様が指示を覚えやすい工夫をします。
遊びをスムーズに行うための工夫とヒント
指示理解の遊びを効果的に、そして楽しく行うために、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
- 落ち着いた環境で: 遊びに集中できるよう、テレビを消す、片付いたスペースで行うなど、気が散るものを減らしましょう。
- 短く、明確な言葉で: 長すぎる指示や曖昧な表現は避け、「〇〇してね」のように肯定的な短い言葉で伝えます。
- 視覚的なサポートを活用: 言葉での指示が入りにくい場合は、ジェスチャーをつけたり、写真や絵カード、チェックリストなどを見せたりするのも有効です。
- 成功体験を重ねる: 最初は必ずできる簡単な指示から始め、「できた!」という達成感をたくさん味わわせてあげましょう。成功体験は、次への意欲に繋がります。
- 褒め方にも工夫を: 指示通りにできた結果だけでなく、指示を聞こうとしたこと、やってみようとした努力そのものを具体的に褒めることで、指示への前向きな気持ちを育みます。「最後まで聞いて行動できたね!」「教えてくれた通りにできたね、すごい!」
- お子様のペースと興味を尊重: 無理強いはせず、お子様が興味を持った遊びや、その日のコンディションに合わせて取り組みましょう。遊び自体が苦痛にならないようにすることが最も大切です。
- 指示の受け方を見守る: お子様が指示を聞いている時、どのような様子か観察します。耳を傾けているか、表情はどうか、指示を聞いた後にどのような行動をとるかなどを見ることで、どこでつまずいているかのヒントが得られます。
- 失敗しても大丈夫: 指示通りにできなくても、責めたり叱ったりせず、「もう一度やってみようか」「こうするといいかな?」と優しくサポートします。
よくある困りごとへの対処法
- 指示を聞いていないように見える:
- まずはお子様の目を見て、注意を引いてから指示を出します。名前を呼んで、こちらを向いてくれたら指示を伝えるようにします。
- 聴覚過敏の可能性も考慮し、騒がしい場所での指示は避ける、優しい声で伝えるなどの配慮も必要かもしれません。
- 指示とは違うことをしてしまう:
- 指示が難しすぎた可能性があります。ステップを戻して、より簡単な指示からやり直してみましょう。
- 指示を正しく理解できていないのかもしれません。視覚的なサポートを強化したり、一度に一つの指示に絞ったりします。
- 指示されることを嫌がる:
- 指示=面倒なこと、難しいこと、という経験が多いのかもしれません。まずは遊びの中で、指示通りにすると楽しいこと、嬉しいことがあるという経験を積ませましょう。
- 指示を出す側も、「〜しなさい」という命令形だけでなく、「〜してくれるとママ嬉しいな」「一緒に〜しようか」など、柔らかい声かけを心がけます。
他の家庭での成功事例(フィクション)
「うちの子は、名前を呼んでも振り向かないことが多く、指示もなかなか通りませんでした。最初はボールを『どうぞ』『ちょうだい』とやり取りするだけの簡単な遊びから始めました。毎日少しずつ続けるうちに、私の声かけに反応してくれることが増え、指示も少しずつ入るようになってきたように感じます。今では、『おもちゃを片付けて、手を洗ってね』といった2段階の指示も、時々スムーズにできることがあります。焦らず、小さな成功を一緒に喜ぶことで、本人も自信がついているようです。」
まとめ
お子様が指示を理解し、適切に行動する力を育むことは、日々の生活や将来の様々な場面で役立つ大切なスキルです。特別な訓練ではなく、遊びという楽しい時間を通して、お子様のペースに合わせて根気強く取り組むことが何よりも重要です。
簡単な1段階の指示から始め、少しずつステップアップしながら、視覚的なサポートやポジティブな声かけを効果的に活用してみてください。すぐに効果が出なくても、お子様が指示を聞こうとする姿勢や、指示通りに行動しようとする努力そのものを認め、温かく見守ることが、お子様の成長を促します。
遊びの中で、お子様とのコミュニケーションを楽しみながら、指示理解力を一緒に育んでいきましょう。