遊びで育む子どもの「ここにあるはず」を考える力:見えないものを想像する遊び【発達支援】
はじめに:見えないものを想像する力と子どもの発達
お子さまが「ここには何があるのかな?」「隠れているのはなんだろう?」と、目に見えないものに思いを巡らせる姿を見たことはありますか。この「見えないものを想像する力」は、単に想像力や推測力だけでなく、思考力や記憶力、問題解決能力など、さまざまな認知能力の発達と深く関わっています。
例えば、「冷蔵庫の中にジュースがあるはず」「おもちゃ箱の中に、さっきまで遊んでいたミニカーが入っているはず」といった推測は、過去の経験や状況を記憶し、現在の情報と結びつけて行う思考プロセスです。この力は、やがて学校での学習や、社会の中で先のことを考えて行動する際に不可欠な基盤となります。
発達に特性のあるお子さまの中には、目に見えるものへの関心は強い一方で、見えないものへの関心を持ったり、見えないものを頭の中でイメージしたりすることが苦手な場合があります。しかし、このような力も、適切な働きかけと繰り返しによって育むことが可能です。そして、その最も効果的で楽しい方法の一つが「遊び」です。
特別な道具を用意しなくても、身近にあるものを使って、家庭で安全に、楽しく見えないものを想像する力を育む遊びはたくさんあります。この記事では、そんな遊びのアイデアと、遊びを通してどのように発達を支援できるのかをご紹介します。
遊びで育む「見えないものを想像する力」:具体的なアイデア
「見えないものを想像する力」を育む遊びは、お子さまが「見えないけれど、きっとここにある(またはこうなっている)だろう」と考えるきっかけを作ることがポイントです。触覚、聴覚、嗅覚などの五感を使ったり、記憶や経験をたどったりすることで、目に見えない世界に意識を向けられるように支援します。
ここでは、家庭で簡単にできる遊びをいくつかご紹介します。
1. ふしぎな箱当てゲーム
遊び方
- 中身が見えない箱や袋(お菓子の空き箱や布製の巾着袋など)を用意します。
- 中に、お子さまがよく知っているものを一つ入れます(例:積み木、スプーン、ミニカー、消しゴムなど)。
- お子さまに箱の中に手を入れてもらい、中身を見ずに触った感触だけでそれが何かを当ててもらいます。
- すぐに分からなくても、「どんな形かな?」「固い?柔らかい?」「どこかで見たことあるかな?」などと優しくヒントを出します。
- 正解したら一緒に喜び、難しければヒントを増やしたり、より分かりやすいものに変えたりしましょう。
この遊びが育む力
- 触覚認知と統合: 見えない情報を触覚だけで捉え、それを既知の物のイメージと結びつけます。
- 推測力と仮説検証: 触覚情報から「これは〇〇かな?」と推測し、さらに触って確認する過程で仮説を検証する力が育まれます。
- 語彙力と表現力: 触った感触や物の名前を言葉で表現する練習になります。
- 集中力と注意の持続: 目で見えない情報に意識を集中させ、注意を保つ練習になります。
実践のヒント
- 最初は、形が特徴的で分かりやすいもの(例:ブロック、鍵、フォークなど)から始めると成功体験に繋がりやすいです。
- 慣れてきたら、似たような感触のもの(例:ビー玉とボタン、鉛筆とストローなど)を入れて、より難易度を上げることができます。
- 「お母さんもやってみるね!」と一緒に楽しむことで、お子さまの安心感と意欲を引き出せます。
2. 隠された宝物探し
遊び方
- お子さまに見えないように、おもちゃや好きなお菓子などを部屋のどこかに隠します。
- 隠し場所は、最初は分かりやすい場所(例:椅子の下、本の後ろなど)にします。
- 「〇〇が隠れているよ。探してみよう!」と声をかけます。
- お子さまが探し始めるのを見守り、困っているようであれば「ヒント!椅子の近くかも」「色は何色かな?」など、少しずつヒントを出します。
- 見つけたら一緒に喜び、隠した場所を確認します。
この遊びが育む力
- 空間認識能力: 「どこに隠されているか」を想像し、部屋の中の空間を手がかりに物を探すことで、空間を把握する力が育まれます。
- 記憶力: 隠した場所やヒントを記憶し、探し物に繋げます。
- 推測力と問題解決: ヒントや周囲の状況から「ここにあるかもしれない」と推測し、どうすれば見つけられるかを考えます。
- 持続的な探索: 見つかるまで諦めずに探し続ける粘り強さが育まれます。
実践のヒント
- 最初は、隠す場所の候補を2〜3箇所に絞ってから「この中にあるよ」と伝えるなど、選択肢を少なくすると始めやすいです。
- 「もっと右!」「もうちょっと上!」など、具体的な方向や位置の言葉を使ってヒントを出すと、言葉の理解と空間認知の学習にも繋がります。
- お子さまが隠す側に回ることで、隠す場所を考えたり、相手が探す様子を見たりする経験ができます。
3. 聞こえる音は何の音?
遊び方
- お子さまに目をつぶってもらうか、背中を向けたり、隣の部屋にいてもらったりします。
- 身近なものを使って、音を立てます(例:スプーンをコップで混ぜる音、紙を破る音、ドアをノックする音、手を叩く音など)。
- お子さまにその音が何の音かを当ててもらいます。
- 正解したら音のする物を見せて確認し、なぜその音か理由を話したりします。
この遊びが育む力
- 聴覚認知: 目で情報が得られない状況で、聴覚からの情報だけで対象を特定しようとします。
- 記憶と照合: 過去に聞いたことのある音の記憶と、今聞いている音を照らし合わせて推測します。
- 集中力と傾聴: 音に意識を集中させ、注意深く聞く力が養われます。
- 語彙力: さまざまな音とその原因となる物の名前を学びます。
実践のヒント
- 最初は日常的で分かりやすい音から始め、徐々に難易度を上げましょう。
- 当てられたら「ピンポーン!大正解!」とジェスチャーを交えて褒めると盛り上がります。
- 音を出す側と当てる側を交代したり、「この音はどんな気持ちになる?」など、音から連想するイメージを言葉にしてもらうのも良いでしょう。
よくある困りごとと対処法
- なかなか当てられない: 無理強いせず、ヒントを具体的にしたり、より分かりやすいものに変えたり、一緒に手を入れて触ってみるなど、成功しやすいように調整しましょう。正解することよりも、「見えないけれど考えてみる」経験そのものが大切です。
- 興味を示さない: 最初は短い時間だけ行ったり、お子さまの特に好きなもの(キャラクターグッズなど)を隠したりして、興味を引く工夫をしてみましょう。遊びの種類を変えてみるのも良いかもしれません。
- ルールが理解できない: 遊びのルールを言葉だけでなく、ジェスチャーを交えたり、大人がやって見せたりしながら、ゆっくりと繰り返し伝えます。簡単な「隠す」「探す」「当てる」といった行動から始めましょう。
他の家庭での体験談(フィクション)
ある日、Aさんの息子さんは、目に見えないものへの関心が薄いように感じていました。そこで、Aさんは「ふしぎな箱当てゲーム」を取り入れてみました。最初は箱に手を入れるのをためらっていた息子さんでしたが、大好きなキャラクターの小さなおもちゃを入れたところ、勇気を出して手を入れることができました。「なんだろう?」とつぶやきながら、指先で形をなぞっています。「耳みたいのがついてる?」と息子さんが言うので、「うん、耳がついてるね。他に何か分かるかな?」と声をかけると、しばらく触った後で「〇〇(キャラクター名)だ!」と嬉しそうな声を出しました。初めは難しかった物の名前を当てることも、少しずつできるようになり、「次はこれを入れてみて!」と自分から積極的に箱に物を持ってくるように変化が見られました。この遊びを通して、触った感触と物のイメージを結びつける力が育ち、目に見えないものを推測する楽しさを経験できたようです。
まとめ
「見えないものを想像する力」は、お子さまが世界をより深く理解し、主体的に考え、行動していくための大切な力です。今回ご紹介したような遊びを通して、お子さまは五感を研ぎ澄ませ、記憶をたどり、様々な可能性を推測する経験を積み重ねていきます。
大切なのは、結果にこだわりすぎず、遊びの過程を親子で一緒に楽しむことです。お子さまが「なんだろう?」「ここにあるかな?」と目を輝かせ、考えを巡らせる時間そのものが、かけがえのない発達の機会となります。
日々の生活の中で、少しの時間でも構いません。身近なものを使って、見えない世界への想像の扉を開く遊びに、ぜひ取り組んでみてください。遊びを通して育まれる力が、お子さまの未来を豊かに照らすことでしょう。