遊びで育む空間認識力:家庭でできる簡単アイデア【発達支援】
空間認識力とは?日常生活におけるその大切さ
私たちは普段、自分が今どこにいるか、周りに何があるか、物と物との距離はどれくらいかなどを無意識に把握しながら生活しています。この能力を「空間認識力」と呼びます。自分の体の位置や動き、物体の形、大きさ、位置、方向などを理解し、それらの関係性を認識する力です。
空間認識力は、日常生活のさまざまな場面で使われています。例えば、
- 道を歩くときに人や物にぶつからずに進む
- 机の上のコップを取るために手を伸ばす距離を測る
- 服をたたんでタンスにしまう
- 靴を左右間違えずに履く
- 絵を描いたり、図形を写したりする
- ボールをキャッチする、投げるといった運動
など、枚挙にいとまがありません。空間認識力が育つことは、体の動かし方がスムーズになったり、物の配置を理解して片付けができるようになったり、図工や算数の学習につながったりと、子どもの発達にとって非常に重要です。
遊びで空間認識力を育むヒント
空間認識力は、特別な訓練をしなくても、日々の遊びの中で自然に育まれるものです。ここでは、家庭で手軽にできる遊びを紹介します。特別な道具は必要ありません。
1. 積み重ねる・並べる遊び
積み木やブロック、あるいは空き箱やペットボトルなど、身近にあるものを積み重ねたり、横に並べたりする遊びです。
- 準備: 積み木、ブロック、空き箱、ティッシュペーパーの箱など、積み重ねたり並べたりできるものを用意します。
- 遊び方:
- 「高く積み上げてみよう」「横に長く並べてみよう」と声かけながら一緒に積んだり並べたりします。
- 「お父さんの背より高くできるかな?」「この線まで並べてみよう」のように目標を設定するのも良いでしょう。
- 「これはこっちに置いてみようか」「次はその上に乗せてみて」など、位置や方向に関する言葉を使いながら関わります。
- 効果: 物体の形や大きさを認識し、バランスを取りながら空間に配置する力が育ちます。高さや長さ、横、縦といった空間に関する言葉の理解も深まります。
2. 隠されたものを見つける遊び
部屋の中や庭などに物を隠して、子どもに探してもらう遊びです。
- 準備: 子どもが好きなおもちゃや、大きさが手頃なものを用意します。隠す場所を決めます。
- 遊び方:
- 「〇〇ちゃん(くん)の好きなおもちゃを、カーテンの後ろに隠したよ」「あのソファの下にあるかな?」のように、隠した場所のヒントを具体的な場所や方向で伝えます。
- 難易度に合わせて、ヒントを少なくしたり多くしたり調整します。
- 「あった!すごいね!」「どこにあったかな?」「机の下にあったね」のように、見つけた場所を言葉で確認します。
- 効果: 物の位置や方向を理解し、空間全体を把握して探索する力が養われます。ヒントから場所を推測する認知的な働きも促されます。
3. 体全体を使った遊び
鬼ごっこ、かくれんぼ、ボール遊びなど、体を大きく使う遊びも空間認識力を育みます。
- 準備: 広い場所(部屋の中、公園、庭など)を確保します。必要に応じてボールを用意します。
- 遊び方:
- 鬼ごっこ/かくれんぼ: 逃げる、追いかける、隠れる、探すといった動きの中で、自分の体と周囲の空間(壁、家具、木など)との距離や位置関係を瞬時に判断する必要があります。
- ボール遊び: ボールが飛んでくる方向や速度を予測し、自分の体をどのように動かせばキャッチできるか、あるいは狙った場所に投げるためにどのくらいの力で投げれば良いかなどを判断します。
- 効果: 自分の体の位置(ボディイメージ)と周囲の空間との関係性を理解し、動く物体や自分の体の動きを予測する力が育ちます。危険を回避する能力にもつながります。
4. パズルや図形遊び
ジグソーパズルや、型はめパズル、積み木を使ったシルエットパズルなど、図形や形を扱う遊びです。
- 準備: パズル、型はめおもちゃ、積み木、シルエットパズルの見本などを用意します。
- 遊び方:
- パズルのピースの形と、はめる場所の形を見比べて、向きや位置を考えながらはめていきます。
- 積み木で、見本と同じ形を作る遊びも空間認識力を養います。
- 「このピースはどっち向きかな?」「これはここに入るかな?」のように問いかけながら取り組みます。
- 効果: 平面図形や立体図形の認識、部分と全体の関係の理解、回転や移動といった操作を頭の中で行う力が育ちます。
実践のヒントとよくある困りごとへの対処法
- 子どもの興味に合わせて: 子どもが好きな素材や遊びを選ぶと、より楽しく取り組めます。無理強いせず、遊びに乗ってこないときは別の機会にしましょう。
- 声かけの工夫: 「上に積もう」「下から取って」「椅子の後ろだよ」「もう少し前だよ」など、位置や方向を示す言葉を具体的に使いましょう。
- できたことを褒める: 成功したときに「できたね!」「すごい!」と具体的に褒めることで、子どもは自信を持ち、遊びへの意欲を高めます。
- 難易度を調整: 子どもの発達段階やその時の様子に合わせて、遊びの難易度を調整しましょう。簡単すぎる、難しすぎると感じると、すぐに飽きてしまったり、やる気をなくしたりすることがあります。
- すぐに飽きてしまう場合: 一つの遊びに長く集中できなくても問題ありません。いくつかの遊びをローテーションしたり、短い時間でも毎日少しずつ取り入れたりする工夫をしましょう。遊び方を変えてみるのも良いアイデアです。
他の家庭でのエピソード
あるお母さんは、3歳のお子さんがよく物にぶつかったり、物の場所がわからなかったりすることに悩んでいました。そこで、家庭でできる空間認識力を育む遊びを取り入れてみたそうです。
まずは、お風呂のおけやシャンプーボトルを使って、お風呂場で高く積み上げる遊びを始めました。「お城を作ろう!」と言って一緒に積み、崩れたら「あーあ、もう一回!」と笑いながら繰り返しました。次に、新聞紙を丸めたボールを使って、部屋の壁に貼った目標の輪っかに向かって投げる遊びを取り入れました。最初はなかなか入りませんでしたが、「もっと近くかな?」「もう少し上を狙ってみようか?」と一緒に試行錯誤しました。
数ヶ月続けたところ、少しずつ物にぶつかることが減ってきたのを感じたそうです。また、「ママ、あのリモコン、テーブルの上にあったよ!」のように、物の位置を言葉で伝えてくれることも増えたといいます。「遊びを通して、楽しんで取り組めたのが良かった」と話していました。
まとめ
子どもの空間認識力は、日々のさまざまな経験や遊びを通して着実に育まれていきます。特別な道具や専門的な知識がなくても、家庭にある身近なものを使って、子どもと一緒に楽しく遊ぶことから始めることができます。
焦る必要はありません。大切なのは、子どもが遊びを通して「できた!」という成功体験を積み重ねること、そして、おうちの方が一緒に楽しみながら寄り添うことです。今回ご紹介したアイデアが、少しでもお役に立てれば幸いです。