遊びで育む粘り強さ:最後まで頑張る力を育む家庭アイデア【発達支援】
子どもたちが成長していく過程で、物事に根気強く取り組み、最後までやり遂げる力、いわゆる「粘り強さ」は非常に大切になります。この力は、学習だけでなく、将来社会で生活していく上での困難を乗り越える基盤となります。
特に、発達に特性のあるお子さんの場合、集中力の維持や、一度の失敗で諦めてしまう傾向が見られることがあります。しかし、粘り強さは生まれつき決まるものではなく、日々の経験、特に遊びを通して楽しく育んでいくことができる力です。
このウェブサイト「遊びで育む発達支援」では、遊びを通して子どもの発達を支援するヒントをお届けしています。今回は、家庭でできる簡単な遊びで、お子さんの「最後まで頑張る力」を育む方法についてご紹介します。特別な準備は必要ありません。身近なものを活用して、お子さんと一緒に楽しみながら、小さな「できた!」を積み重ねていきましょう。
粘り強さとは何か?なぜ遊びで育めるのか?
粘り強さとは、困難や失敗に直面してもすぐに諦めず、目標に向かって努力し続ける力のことです。これは、課題を解決しようとする意欲、計画を立てて実行する力、そして感情をコントロールする力など、様々な要素が複合的に関わっています。
遊びは、子どもにとって最も自然な学びの場です。遊びを通して、子どもは以下のような経験をします。
- 目標設定: 「このブロックをもっと高く積みたい」「このパズルを完成させたい」など、自分で目標を立てます。
- 試行錯誤: うまくいかない時に、「どうしたらできるかな?」と考え、様々な方法を試します。
- 達成感: 難しい課題をクリアできた時に、大きな喜びと達成感を得ます。
- 自己肯定感: 「頑張ればできるんだ!」という成功体験が積み重なり、「自分はできる」という感覚(自己肯定感)が高まります。
これらの経験が、粘り強さの基盤を築いていきます。特に、大人が介入しすぎず、子ども自身が考え、行動し、結果を受け入れるプロセスを見守ることが重要です。
家庭でできる!粘り強さを育む具体的な遊びアイデア
特別な道具は必要ありません。今、ご家庭にあるもので、お子さんの粘り強さを育むのに役立つ遊びをいくつかご紹介します。
1. 少し難しい積み木・ブロック遊び
ただ高く積むだけでなく、少し崩れやすい不安定な積み方や、特定の形のタワーを作るなど、普段より少しだけ難易度を上げてみましょう。
- 準備するもの: 積み木やブロック
- 遊び方:
- 「今日は、このブロックを3つ使って、動物さんのお家を作ってみよう」「一番上にとんがり屋根を乗せてみよう」など、少しだけ具体的な目標を設定します。
- お子さんが自分で考えて積み上げるのを見守ります。
- 崩れてしまっても、「おっとっと!大丈夫だよ、もう一度挑戦してみよう」などと優しく声をかけ、再挑戦を促します。
- 発達への働きかけ: 目標設定、計画性、手先の調整力、失敗からの学び、再挑戦の意欲。
- ヒント: 目標は最初は本当に小さなことから始め、「これならできそう」と思えるレベルに設定することが大切です。
2. 簡単なパズル遊び
ピース数が少ないものから始め、徐々にピース数を増やしたり、少し複雑な絵柄のパズルに挑戦したりします。
- 準備するもの: パズル
- 遊び方:
- 「このパズル、一緒に完成させてみようか」と誘います。
- お子さんがどのようにピースを選び、はめようとしているのかを観察します。
- 迷っている様子なら、「これはどこの場所かな?」「色を見てみようか」など、ヒントを与えますが、答えを直接教えるのは避けましょう。
- 完成したら、一緒に喜びを分かち合います。
- 発達への働きかけ: 集中力、視空間認知、問題解決能力、達成感、最後までやり遂げる経験。
- ヒント: どうしても難しい場合は、一緒に数ピースだけはめたり、端のピースから取り組むヒントを教えたりして、成功体験に繋がるようにサポートします。
3. 身近なものを使った迷路遊び
紙に書いたり、床にテープを貼ったり、クッションや座布団を並べたりして、簡単な迷路を作ります。
- 準備するもの: 紙とペン、またはマスキングテープ、クッションなど
- 遊び方:
- スタートとゴールを決め、「ゴールまで行けるかな?」と挑戦を促します。
- 途中で行き止まりになったり、コースを間違えたりしても、「あれ?こっちは行けないみたいだよ。別の道を探してみようか」と声かけます。
- 自分で考えて道を探すのを応援します。
- 発達への働きかけ: 思考力、問題解決能力、空間認識、試行錯誤、目標達成への意欲。
- ヒント: 最初は一本道に近い簡単なものから始め、慣れてきたら枝分かれを増やしたり、少し複雑なコースにしたりとレベルアップします。
4. 簡単な工作・お料理遊び
ハサミで紙を切って貼り付ける、折り紙を折る、材料を混ぜる、盛り付けをするなど、手順のある簡単な作業を伴う遊びです。
- 準備するもの: 画用紙、折り紙、ハサミ、ノリ、または簡単な料理の材料
- 遊び方:
- 「今日は一緒に〇〇を作ってみよう」と目的を伝えます。
- 手順を一つずつ確認しながら進めます。難しい工程はお手伝いします。
- 時間がかかっても焦らず、完成を目指して励まします。
- 完成したら、作品を飾ったり、一緒に作ったものを食べたりして喜びを分かち合います。
- 発達への働きかけ: 手順理解、計画性、手先の巧緻性、集中力、達成感、共同作業(親と子の関わり)。
- ヒント: 子どもの興味のあるテーマ(好きなキャラクター、動物など)で工作内容を決めると、より意欲的に取り組むことができます。お料理は、混ぜるだけ、ちぎるだけなど、安全で簡単な工程から始めましょう。
遊びを通して粘り強さを育むための工夫
これらの遊びを行う上で、より効果的に粘り強さを育むためのポイントがあります。
- 小さな「できた!」を積み重ねる: 最初から難しい課題に挑戦させず、「これならできそう」というスモールステップで始めます。成功体験を積み重ねることが、次の挑戦への意欲に繋がります。
- プロセスを褒める: 結果だけでなく、頑張った過程や努力を具体的に褒めましょう。「最後まで諦めずにピースを探したね、すごいね」「何度も崩れちゃったけど、もう一度やってみようって思えたのが素晴らしいね」など、努力を認められることで、子どもは「頑張ること」に価値を感じるようになります。
- 失敗を前向きに捉える: 失敗は決して悪いことではありません。「惜しかったね!」「次はこうしてみたらどうかな?」など、失敗から学ぶ機会として捉えられるような声かけをします。
- 休憩をうまく取り入れる: 集中が切れてきたら無理強いせず、休憩を挟みます。気分転換をしてから「続きをやってみようか」と誘うことで、改めて取り組む気持ちを引き出せることがあります。
- 親も一緒に楽しむ: 親が楽しそうに一緒に取り組む姿を見せることで、子どもも安心して遊びに集中できます。
よくある困りごとへの対処法
- すぐに「できない」「やめる」と言ってしまう:
- まずは「できないね、難しいね」と気持ちに寄り添います。
- 課題をさらに小さなステップに分け、「これならできそうかな?」と提案します。
- ほんの少しでもできた部分があれば、そこを具体的に褒めます。
- 無理強いせず、その日はやめても良いですが、「また明日挑戦してみようね」と前向きな言葉で締めくくります。
- 癇癪を起こしてしまう:
- まずは安全を確保し、クールダウンを見守ります。
- 落ち着いてから、何が嫌だったのか、何が難しかったのかを聞いてみます。
- 気持ちを受け止めた上で、「難しかったね。どうしたらできるか、一緒に考えてみようか」などと、問題解決の姿勢を示します。
- 飽きて、別の遊びに移ってしまう:
- 必ずしも最後までやり遂げることが全てではありません。他の遊びから何かを学んでいる可能性もあります。
- ただ、目的の遊びに戻ってきてほしい場合は、「あと〇個だけやってみようか」「ここまでできたらおしまいにしようね」など、見通しを持たせたり、小さな目標を設定したりする方法が有効な場合があります。
家庭でのエピソード(フィクション)
A君(5歳)は、少し難しい課題にぶつかるとすぐに「もうやだ!」と投げ出してしまうことがよくありました。特に、小さなピースが多いパズルは苦手で、数ピースはめるとすぐに飽きてしまっていました。
お母さんは、この記事で読んだ「小さな目標」と「プロセスを褒める」ことを実践してみることにしました。まず、ピースが少なく、A君の好きな電車のパズルを用意しました。最初はお母さんと一緒に「端っこから見つけよう」と、二人で端のピースだけを集めました。端のピースが全部見つかると、「端っこ全部見つけられたね!すごい!」とお母さんが褒めました。
次に、「電車の形になっているピースを探そう」と誘い、A君は電車型のピースを見つけることに集中しました。少し時間がかかりましたが、見つけられるたびに「あった!」「見つけたね!」と声をかけました。
このように、一度に全部完成させるのではなく、「端を見つける」「特定の色を探す」「〇個だけはめる」など、その日その日で小さな目標を設定し、それが達成できるたびに「よく頑張ったね」「すごい集中力だね」と努力を具体的に褒め続けました。
数週間後、A君は一人で数ピースを連続してはめることができるようになり、崩れそうになっても「あー!」と言いながらも自分で立て直そうとする様子が見られるようになりました。まだ完全に一人で完成させるのは難しいですが、以前のようにすぐに投げ出すことは減り、「もうちょっとやってみる!」と言える場面が増えてきました。お母さんは、遊びを通して粘り強さの芽が出てきたことを感じています。
まとめ
粘り強さは、子どもが将来、様々な壁を乗り越えていくための大切な力です。特別な訓練をするのではなく、日々の遊びの中に、最後まで頑張るためのヒントはたくさん隠されています。
今回ご紹介したような、身近なものを使った簡単な遊びを通して、お子さんが自分で目標を設定し、試行錯誤し、小さな成功体験を積み重ねられるようにサポートしてください。結果だけでなく、頑張ったプロセスを認め、応援する声かけをすることで、お子さんは「頑張ることって楽しい」「やればできるんだ」と感じ、粘り強さを自然と身につけていくでしょう。
焦る必要はありません。お子さんのペースに合わせて、楽しむことを一番大切にしながら、遊びの中で「最後まで頑張る力」を育んでいきましょう。