遊びで学ぶ「今」と「あと」:時間理解を育む家庭アイデア【発達支援】
時間の理解を育むことの難しさと大切さ
お子さまの発達において、「時間」という抽象的な概念の理解は、時に大きな課題となることがあります。特に発達に特性のあるお子さまは、見えない「時間の流れ」や「長さ」を捉えたり、未来への見通しを持ったりすることが難しい場合があります。
「あとでね」と言われても、それがいつなのか分からず不安になったり、「もうすぐ終わりだよ」と言われても、気持ちの切り替えが難しかったりすることがあるかもしれません。時間の感覚がつかみにくいことで、生活リズムが乱れたり、予期せぬ出来事への対応が難しくなったりすることもあります。
しかし、時間の理解は、日々の生活をスムーズに送る上で非常に大切な力です。「今、何をするか」「次に何が起こるか」「あとどれくらいで終わるか」といった見通しを持つことは、お子さまの安心感につながり、主体的な行動を促す土台となります。
この記事では、ご家庭で身近なものを使って遊びながら、お子さまが「今」「あと」といった具体的な時間概念や、短い時間の流れを少しずつ理解していくためのアイデアをご紹介します。特別な準備はほとんど必要ありません。
遊びで時間の理解を育むための基本的な考え方
時間の理解を促す遊びを取り入れる際に、いくつか大切にしたい考え方があります。
- 抽象的な時間より具体的な体験を: 時計の針や数字といった抽象的なものよりも、「これが終わったら」「これが鳴ったら」など、具体的な出来事や感覚と時間を結びつけることから始めます。
- 視覚的なサポートを活用: 見えない時間の流れを、絵や写真、もの(砂、タイマーなど)を使って「見える化」することで、理解しやすくなります。
- 予測可能な繰り返し: 毎日、または毎週繰り返される活動の中に時間に関する要素を取り入れることで、予測可能な安心できる流れの中で時間を体験できます。
- 肯定的な声かけ: 時間に関する指示が守れたとき、時間の見通しを持って行動できたときには、具体的な言葉で褒めて自信につなげます。
これらの基本的な考え方を念頭に置きながら、具体的な遊び方を見ていきましょう。
家庭でできる!遊びで時間理解を育むアイデア
1. 砂時計やキッチンタイマーを使った遊び
「終わり」を具体的な合図で知らせる最も簡単な方法の一つです。
- 遊び方:
- お子さまが好きな遊び(積み木、お絵かき、パズルなど)をする際に、「この砂時計の砂が全部落ちるまで遊ぼうね」や「このタイマーが『チーン!』って鳴るまでお片付けしようね」と伝えて始めます。
- 短い時間(1分、3分など)から始め、慣れてきたら少しずつ時間を長くしてみます。
- タイマーが鳴ったら「時間だよ、おしまい」と声をかけ、次の活動に移ります。
- 準備: 砂時計、キッチンタイマー、スマートフォンのタイマー機能など、ご家庭にあるもの。
- 効果:
- 時間の「長さ」や「終わり」を視覚的、聴覚的に捉える練習になります。
- 活動の終わりを見通すことで、次の活動への切り替えがスムーズになることがあります。
- 時間内に何かを終えるという目標を持つことで、集中力が養われることもあります。
- 工夫: 最初は、時間内にとても簡単なことが終わるように設定し、成功体験を積み重ねることが大切です。タイマーの音を子どもが怖がらないか、確認しながら使い始めましょう。
2. 絵カードや写真を使った「やることリスト」遊び
一連の活動の順番を「見える化」することで、時間の流れや次に何が起こるかの見通しを持つことができます。
- 遊び方:
- 朝起きてから家を出るまで、おやつを食べるまで、寝るまでなど、お子さまの身近な一連の活動(「顔を洗う」「着替える」「ご飯を食べる」など)を絵や写真でカードにします。
- 活動の順番にカードを並べ、「まずこれ、次にこれ、その次これ」と指差し確認しながら進めます。
- 一つの活動が終わるたびに、終わったカードを裏返したり、ゴミ箱に見立てた箱に入れたりして、「これは終わったね、次はこれだよ」と視覚的に「終わり」と「次」を示します。
- 準備: 画用紙や厚紙、ペン、お子さまの写真(活動風景)、ハサミ、テープやのり。
- 効果:
- 活動の順序や時間の流れを具体的に理解できます。
- 次に行うことが予測できるため、見通しを持って行動でき、不安が軽減されることがあります。
- 自分でカードをめくるなどの作業を通して、主体性や達成感を得られます。
- 工夫: 最初は2〜3枚の少ないカードから始め、慣れてきたら活動を細分化したりカードの数を増やしたりします。お子さまが自分で絵を描いたり、写真を撮ったりして一緒にカードを作るのも良いでしょう。
3. 「もうすぐ」「あとで」を体験する遊び
日常会話の中で、時間を示す言葉と具体的な活動を結びつける練習です。
- 遊び方:
- 「このおもちゃを片付けたら、もうすぐ公園に行こうね」
- 「お風呂に入って、絵本を読んだら、あとで寝ようね」
- 「このテレビ番組が終わったら、ご飯だよ」 など、具体的な行動や出来事を軸に、「もうすぐ」「あとで」「終わったら」といった言葉を使います。
- 言葉だけでなく、ジェスチャー(時計の針を指す、次の場所を指すなど)や視覚的な合図を併用すると、より分かりやすくなります。
- 準備: 特に特別な準備は不要です。日々の生活の中で意識して声かけを行います。
- 効果:
- 抽象的な時間言葉と具体的な体験を結びつける練習になります。
- 未来に何が起こるかを予測する力を育みます。
- 声かけを通じて、時間に関する語彙が増えるきっかけになります。
- 工夫: 具体的に「いつ」を指しているのか、お子さまが理解できるよう、行動とセットで声かけすることを徹底します。曖昧な表現(「そのうちね」など)は避け、約束を守ることも信頼関係を築く上で重要です。
4. 季節やイベントを意識する遊び
より長い時間のスパンや、時間の繰り返し(周期)をゆるやかに感じるための遊びです。
- 遊び方:
- カレンダーに、お子さまが楽しみにしているイベント(誕生日、クリスマス、旅行など)に〇をつけたり、シールを貼ったりします。「この〇の日になったら、〇〇だよ!」と話します。
- 季節ごとの飾りつけを一緒に行ったり、季節に関連した歌を歌ったり、絵本を読んだりします。「寒くなってきたね、もうすぐ冬だね」「桜が咲いたね、春になったね」など、具体的な変化と季節を結びつけます。
- イベントまでの日数を一緒に数える(難しい場合は「寝て起きたら」を繰り返すなど)ことで、時間の経過を体験します。
- 準備: カレンダー、シール、季節の飾り、関連する絵本や歌など。
- 効果:
- より長い時間の流れや、季節の移り変わりといった時間の繰り返しを感覚的に捉えるきっかけになります。
- 未来への見通しを持つことの楽しさを知ります。
- 家族との楽しい共有体験になります。
- 工夫: 無理に「〇日後」といった数字にこだわる必要はありません。「寒くなったら」「葉っぱが落ちたら」など、分かりやすい具体的な目印を使うことから始めましょう。
実践のヒントと成功事例(フィクション)
これらの遊びは、お子さまに「時間を理解させよう」と力むのではなく、「遊びを通して、時間の感覚に触れる機会を作ろう」という気持ちで取り組むことが大切です。
- 無理強いはしない: お子さまの興味や気分に合わせて、楽しめる範囲で行いましょう。
- 成功体験を積み重ねる: 最初は簡単なことから始め、「時間内にできたね!」「カードの順番通りにできたね、すごいね!」と具体的に褒めることで、お子さまの自信につながります。
- 視覚的なサポートは強力な味方: 言葉での説明が難しい場合でも、絵やタイマーは分かりやすい手助けになります。
- 大人が焦らない: すぐに完璧に理解できなくても大丈夫です。繰り返し、気長に、楽しく取り組むことが何よりも大切です。
【成功事例:タイマーを使った片付け】
Aさんの息子さん(5歳)は、遊びの切り替えが難しく、片付けを嫌がることがよくありました。「片付けの時間だよ」と声をかけてもなかなか動けず、親子でストレスを感じていたそうです。
そこでAさんは、キッチンのタイマーを使うことにしました。「ピンポンと鳴るまでに、ここにあるブロックを箱に入れようね」とタイマーをセット。最初は1分から始め、鳴る前に全部入れられたら「タイマーが鳴る前に片付けられたね、すごいね!」と笑顔で伝えました。
毎日続けるうちに、息子さんはタイマーの音を意識するようになり、片付けを遊びの一つとして捉えるようになったそうです。今では、タイマーが鳴る前に片付けを終えようと、自分から進んで取り組む時間が増えたとのことです。「時間の終わり」が視覚的に分かったことで、見通しがつきやすくなったことが成功の要因だったとAさんは話しています。
まとめ
お子さまの時間の理解を育むことは、簡単なことではありません。しかし、砂時計を使ったり、絵カードを並べたり、楽しいイベントを指折り数えたりといった日常の中の小さな遊びや工夫を通して、時間を体験する機会を増やすことができます。
「今」「あと」といった身近な時間概念から、少しずつ時間の流れや見通しを持つ力を育んでいくことは、お子さまの安心感や自己肯定感を高め、生活スキルを向上させることに繋がります。
焦らず、お子さまのペースに合わせて、ご家庭でできることから、ぜひ遊び感覚で取り組んでみてください。お子さまとのコミュニケーションを楽しみながら、成長を優しくサポートしていくヒントとなれば幸いです。