遊びで育む子どもの「人の話を聞く力」:家庭でできる遊びのアイデア【発達支援】
「人の話を聞く力」が育む子どもの世界
お子様の発達において、「人の話を聞く力」はとても大切な土台となります。お友達とのやりとり、集団でのルール理解、学習の場面など、さまざまな状況でこの力が求められます。発達に特性のあるお子様の場合、音として聞こえていても、その内容を理解したり、指示として受け取ったり、長い時間集中して聞き続けたりすることが難しい場合があります。
しかし、「聞く力」は特別な訓練だけでなく、日々の遊びを通して楽しく育むことができます。家庭でできる簡単な遊びを取り入れることで、お子様は無理なく、自然な形で聞く力を伸ばしていくことが期待できます。
この遊びで育む発達支援のウェブサイトでは、遊びを通して子どもの発達をサポートするヒントをお届けしています。この記事では、お子様の「聞く力」を育むための、家庭で簡単に実践できる遊びのアイデアをご紹介します。
なぜ遊びが「聞く力」を育むのか
遊びの中では、子どもは楽しみながら自然とさまざまな感覚や能力を使います。聞く遊びを通して、お子様は以下のような「聞く力」のさまざまな側面を伸ばすことができます。
- 集中力: 面白い遊びは、お子様の注意を引きつけ、音や話に意識を向ける時間を長くすることを促します。
- 聞き分け: 特定の音や言葉に耳を澄ませる遊びは、必要な情報を選び取る力を育てます。
- 内容理解: 聞いた言葉の意味を理解し、それに基づいて行動する遊びは、言葉の理解力を高めます。
- 記憶力: 聞いたことを覚えておく遊びは、短期的な記憶(ワーキングメモリ)を使う練習になります。
- 指示理解: 聞いた指示に従って体を動かしたり、何かをしたりする遊びは、指示を正確に受け取る力を育てます。
これらの力は、「人の話を聞く力」を構成する大切な要素です。遊びは、これらの要素をバラバラに訓練するのではなく、総合的に楽しみながら育むことができる最適な方法です。
家庭でできる「聞く力」を育む遊びのアイデア
特別な準備や道具は必要ありません。すぐに始められる簡単な遊びをいくつかご紹介します。
1. 簡単指示遊び:宝探しごっこ
身近なものを使って、「人の話を聞いて行動する」練習ができる遊びです。
- 準備: お子様のお気に入りの小さなおもちゃや、お菓子など、隠して見つけると嬉しいものを一つ用意します。
- 遊び方:
- お子様に、探すものが何かを見せます。
- お子様が見ていない間に、部屋のどこかに隠します。
- お子様に「〇〇は、テーブルの下に隠したよ」「椅子の横にある箱の中だよ」のように、場所を示す指示を伝えます。最初は指示を一つだけ伝えます。
- お子様は指示を聞いて探しに行きます。見つけたらたくさん褒めてあげましょう。
- ステップアップ:
- 指示を二つに増やします。「〇〇は、まずテーブルの下を見て、それから椅子の横を探してごらん。」
- 場所だけでなく、「〇〇は、△△の色の上にあるよ」「丸いもののそばにあるよ」のように、物の属性に関する指示を加えます。
- 指示を聞いてから探し始めるまでに少し間を置くなど、記憶力を働かせる要素を加えます。
- 効果: 指示を聞き取り、理解し、覚えて、行動に移す一連の流れを練習できます。最初は簡単な指示から始め、お子様の様子を見ながら少しずつ難易度を上げていくことが大切です。
2. 音を聞き分ける遊び:身の回りの音クイズ
日常の中の様々な音に耳を澄ませる遊びです。
- 準備: 特にありません。静かな時間を見つけましょう。
- 遊び方:
- 目を閉じるか、後ろを向いてもらいます。
- 生活の中の音を立てます。例えば、ドアをノックする音、水を流す音、本のページをめくる音、おもちゃを振る音など。
- 「今の音、なんの音かな?」と尋ねます。
- お子様が音を当てたら、「そうだね!ドアのノックの音だったね」のように確認します。
- ステップアップ:
- 似た音を用意して聞き分けに挑戦します。(例:プラスチックのおもちゃが落ちる音と、木のおもちゃが落ちる音)
- 複数の音を聞かせ、聞こえた順番に答えてもらうようにします。
- 外の音(車の音、鳥の声、風の音など)に耳を澄ませて、何が聞こえるか一緒に話してみます。
- 効果: 注意深く音を聞く集中力と、様々な音を聞き分ける識別力を養います。普段聞き流している音に意識を向けることで、耳で得る情報への感度が高まります。
3. お話を聞いて答える遊び:読み聞かせ+質問タイム
絵本や簡単な物語を聞き、その内容について話す遊びです。
- 準備: お子様が好きそうな、シンプルで分かりやすい絵本や物語。
- 遊び方:
- 絵本を読み聞かせます。読む前に「今日のお話に出てくる〇〇(登場人物の名前)は、どんなことをするのかな?よく聞いてみてね」のように、少し聞くポイントを伝えるのも良いでしょう。
- 読み終わった後、「お話に出てきた〇〇(登場人物)は、どこに行ったかな?」「△△はどんな色だったかな?」など、お話の簡単な内容に関する質問をします。
- お子様が答えたら、「よく聞いていたね!」「〇〇だったね、すごいね」のように、聞けていた部分を具体的に褒めます。
- ステップアップ:
- 「もしあなたが〇〇だったら、どうする?」のように、想像力や気持ちを考える質問を加えます。
- お話の途中で「この後、どうなると思う?」と先を予測する質問をします。
- 登場人物のセリフを真似してもらうなど、言葉の表現にも触れます。
- 効果: 集中してお話を聞く力、内容を理解する力、そして聞いた情報から質問に対する答えを導き出す論理的な思考力を育みます。コミュニケーションの楽しさを感じるきっかけにもなります。
遊びをスムーズに行うための工夫とヒント
- 短時間から始める: 最初から長時間集中することを求めず、お子様が楽しんでいるうちに切り上げるのが成功の秘訣です。慣れてきたら少しずつ時間を延ばしてみましょう。
- 静かな環境を整える: テレビや他の音が少ない、落ち着いた環境で行うと、お子様は話や音に集中しやすくなります。
- 目を見て話す: 指示を伝える際や質問をする際は、お子様と目を合わせ、ゆっくりと分かりやすい言葉で話すことを心がけましょう。必要であれば、身振り手振りを加えるのも効果的です。
- できたことを具体的に褒める: 「ちゃんと聞けていたね」「〇〇の音、よく分かったね」のように、お子様が何をどのようにできたのか具体的に伝えて褒めることで、次への意欲につながります。
- 無理強いしない: お子様の気分が乗らない時は無理強いせず、別の遊びに変えたり、日を改めたりしましょう。遊びは楽しいものであることが最も重要です。
他の家庭での体験談
「指示遊びを始めた頃は、一つ指示を聞いて動くのも難しかったのですが、毎日5分だけ、遊びの感覚で『お片付けごっこ』で『〇〇を箱に入れてね』という指示を繰り返しました。すぐに飽きてしまうかと思いましたが、褒められるのが嬉しかったようで、段々と指示が二つ、三つと聞けるようになってきました。今では、『これとあれを取ってきて』といったお願いも聞けるようになり、家事のお手伝いも少しずつできるようになってきました。」(Aさんの体験談)
「絵本の読み聞かせの後に簡単なクイズを出すようにしたら、以前は絵だけを見ていたのが、お話を注意深く聞くようになったと感じています。クイズに正解すると自信がつくようで、次の読み聞かせも楽しみにするようになりました。お話の内容について自分から質問してくれることも増え、言葉でのやりとりが増えたことが嬉しいです。」(Bさんの体験談)
まとめ
「人の話を聞く力」は、お子様が社会と関わり、学び、成長していく上で欠かせない力です。発達に特性のあるお子様にとって、この力を育むことは将来の可能性を広げることにつながります。ご紹介した遊びは、どれも家庭で簡単にできるものです。難しく考えず、まずは親子で一緒に楽しみながら取り組んでみてください。
毎日の小さな遊びの積み重ねが、きっとお子様の「聞く力」をぐんと伸ばしてくれるはずです。焦らず、お子様のペースに合わせて、遊びを通して豊かなコミュニケーションを育んでいきましょう。